聴きどころ・こぼれ話
【こぼれ話Vol.1】
<弦楽器のための詩曲>、このジャンルはウジェーヌ・イザイ(1858~1931)が独自に作り出したものです。「イザイの詩曲」は単一楽章で形式的な制約もない約15分前後の作品たちです。詩曲には、副題にPoèmeと付けた7曲と付いていないロマンティックな詩曲Les neiges d'antan(往年の雪)、 Harmonies du soir (夕べのハーモニー)があります。イザイは若い時から詩(テキスト)を書き、そのいくつかに曲を付けていたそうです。ベルギー王立図書館音楽部門Marie Cornaz(マリーコルナーズ)さんによると、『イザイはベルリンで詩人ジュール・ラフォルグを通じて詩に出会い、詩を読むことをやめませんでした。ボードレール、ラマルティーヌ、シュリー・プリュドムの詩を評価し、ワロン(ベルギー国土の南半分の地域)の詩も愛しました。』Dr.Marie Cornaz told ; Ysaÿe wrote poems (texts) since his youth and set some of them to music. He discovered poetry through the poet Jules Laforgue in Berlin and never stopped reading poems. He appreciated the poems of Baudelaire, Lamartine, Sully Prudhomme but also Walloon poetry.
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同じく象徴派でフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌ(1844~ 1896)ほど音楽的な詩を書いている人は少ない、ボードレールの影響を受け音楽性豊かな詩風で独自の境地を拓いた詩人と云われています。
聞くところによると、イザイとドビュッシー((1862~1916)達は、彼の詩集の新刊がでるときくやいなや本屋(パリ)に駆け込んでいたらしいですが、どんなに詩Poème の魅力に惹き込まれていたかが伺い知れますよね。 ドビュッシーの人気曲『月の光』は、ヴェルレーヌの詩集『艶なる宴 Fetes Gallantes』から 月の光を取り上げ、イメージを音楽にしています。どんな詩だったのでしょう?
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Clair de lune : Verlaine
Votre ame est un paysage choisi
Que vont charmant masques et bergamasques
Jouant du luth et dansant et quasi
Tristes sous leurs deguisements fantasques.
Tout en chantant sur le mode mineur
L'amour vainqueur et la vie opportune,
Ils n'ont pas l'air de croire a leur bonheur
Et leur chanson se mele au clair de lune,
Au calme clair de lune triste et beau,
Qui fait rever les oiseaux dans les arbres
Et sangloter d'extase les jets d'eau,
Les grands jets d'eau sveltes parmi les marbres.
月の光:ヴェルレーヌ
君の心の風景は独創的な絵のようだ
魅惑の仮装行列が行進し
縦笛を吹き踊る人が描かれているが
仮面の下には悲しそうな表情がある
短調の調べに乗せて
愛や命を歌っているが
幸福そうな顔には見えない
歌声は月の光に溶け込むばかりだ
静かな月の光は悲しくも美しい
小鳥たちは木の枝に夢み
噴水は恍惚にむせび泣く
大理石の像の中の繊細な水のほとばしり
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ヴェヴェルレーヌはベルギーのモンスの刑務所に服役したこともありますが、その間に出版された
詩集「言葉なき恋歌」 Romances sans Parolesのなかにある
『それは物憂き恍惚』
けだるき愛
そよ風に揺られて
木々は震える
それは灰色の枝に響く
ひめやかな声
かよわき枝のささやきよ
汝のささやき 汝のつぶやき
それは葉より漏れる
せつなき叫びを思わせる
汝は叫ぶ ほとばしる水の下の
小石のごとき静けさもて
嘆きの心は今まさに
嘆きのうちに眠らんとす
それはわたしたちの心
わたしの そしておまえの心
切れ切れとした祈りの調べが
生暖かい夕べに響く
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浮かんでは今にも消えそうなせつない恋ごころ~
メロディーやハーモニーに重ねてみたくなりました~♪ 了
【こぼれ話Vol.2】
文学(詩)、音楽、絵画がインスピレーションを受け合い、目に見えない内面、苦悩や不安、運命、空想といった精神世界 を描き出そうとしたのが象徴主義の特徴でした。象徴派といわれる芸術家たちは神話、文学(詩)、絵画から着想を得た数々の作品を残しています。イザイもそれらのイメージを音楽にした一人でした。抽象的で奥深く重い感じに思われがちですが、聴いていると、曲に秘められた熱い思いや詩に表わされるような美しい情景が身にしみわたってきて、素直に心を重ねられるところが最も魅力を感じるところです。
<Ne jamais rien faire qui n'ait pour but et moyens, l\'émotion, lapoésie, le coeur. Eugène Ysaÿe 情・詩・心なくして何事もなし得ることはない。>これはウジェーヌ・イザイが残した言葉ですが、ヴァイオリンの技法を極めたイザイが求めていたのは、情・詩・心 だったのですね~。
学習者に向けてこんな言葉も残しています「現代の技巧的ヴァイオリニストでヴァイオリンを歌わせるように弾く人はほとんどいません。かれらは曲の難しさにはわりと楽に対応できるのですが、その技巧の効果が露骨すぎるのです。たしかに聴衆は驚嘆することもあるかもしれない。しかし魅惑されることがないのです。指の敏捷性、自信ある演奏、完璧な運弓、これらはたしかに重要です。しかし同時に、自分自身が欲しているリズムや自分が表したい詩的な表現を伴わせつつ、演奏を展開していくことも最高のレベルでできないといけません。」
象徴派を代表するといわれる人の名言より、
画家ギュスタヴ・モロー(1826~1898)「見えないもの、感じるものだけを信じる」
詩人ヴェルレーヌ(1844~1896)は「何よりもまず音楽を」
誰もの心にある逃れられない感情に寄り添い包み込んでいく音楽の力は大きい❤皆様にとっては如何でしょうか❤
【こぼれ話vol.3】
ヴァイオリンとオーケストラの為に作曲した最初の詩曲Poème élégiaque ポエム・エレジアク(悲しみの詩曲)op.12、この曲はロミオとジュリエットの悲劇的な戯曲をイメージしたものです。有名な物語なのでよくご存知と思いますが、知っているとコンサートがいっそう楽しい時間となりますので、これから詳しくお伝えしていきたいと思います。
話はそれますが、イザイの故郷ベルギーでの留学生活を終えたばかりのチェリスト上野通明さんは、『儚さと仄暗く光る秘めた情熱を同時に持つ彼の音楽を自然と身近に感じていました。イザイの持つ不思議な魅力を、より強く感じる様になった事もあり、1人でも多くの皆様に素晴らしい作品の数々をきいていただけたらと思います!』と前向きな思いをコメントしてくれました。 ポエム・エレジアクチェロ編曲版は2019年にロシアの名チェリストアレキサンドル・クニャーゼフ氏と協力し合い初刊行した版です。ヴァイオリン曲ではイザイは暗い表情を出すために敢えて本来とは違う、G線を1音下げて調弦をするスコルダトゥーラを指定しています。もしかしたらチェロの音色のほうがヴァイオリンよりこの曲に合っているかもしれない~チェロ編曲版での演奏は至難の技のようですが、ぜひ挑戦してみてくださいね💛
ロマンティシズムみなぎる『イザイの詩曲』の全曲特集するコンサートはこれまでにありません。皆様と分かち合える公演10月7日がとても楽しみです。
【イザイとフォーレ】2024年9月の記録録画より冒頭のみ♫上野通明さんと北村朋幹さんによる演奏。続きは10月7日の再演でご堪能ください。
【聴きどころ】
イザイとチェロ💛
チェロで奏でる【イザイの詩曲】上野通明さんの演奏でお聴きいただくイザイの詩曲「ポエム・エレジアクop.12」、「瞑想曲op.16」、「ポエム・ノクターンop.29」🎻 ヴァイオリニストであるウジェーヌ・イザイが何故?チェロをとても豊かに響かせ、憂いあるチェロソナタや詩曲を描いたか?? イザイは若い頃にチェロを学び、その奏法の細かいところまで熟知していたということです。なかでもイザイの無伴奏チェロソナタハ短調は、バッハの無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調を発想源にしていたようで、イザイは無伴奏ヴァイオリンソナタと同年に作曲しています。チェリスト上野通明さんは「3年間のべルギー留学生活を経て、イザイの持つ不思議な魅力をより強く感じるようになり、これから素晴らしい作品を一人でも多くの方々に聴いていただけたらと思う」と前向きな思いを語っていますので、滅多に聴けないチェロで奏でる<イザイの詩曲>は、コンサートの聴きどころのひとつです❣
上野通明さんは 2025年1月15日ベルギーでのコンサートで、恩師ゲーリー・ホフマン氏とのDuoでA. ヴィヴァルディ:2つのチェロのための協奏曲 RV 531などを演奏。
https://www.youtube.com/watch?v=TJigRvNRkK0
ワロニー王立管弦楽団
ヴァハン・マルディロシアン(指揮
上野 通明(チェロ)
ゲイリー・ホフマン(チェロ)
A. ヴィヴァルディ:2つのチェロのための協奏曲 RV 531
Michiaki Ueno, cello
Gary Hoffman, cello
A. Vivaldi: Concerto for 2 Cellos, RV 531
Concert on January, 15th 2025, at the Music Chapelp.s.
上野通明さんのコンサート前トーク録画 ➡ https://www.facebook.com/share/r/18m8uFeeGJ/?mibextid=wwXIfr
【こぼれ話vol.5】
ヴァイオリニスト毛利文香🥰 自身のYouTubeチャンネル公開初めての演奏動画はイザイの無伴奏ヴァイオリンソナタ4番です。
毛利文香さん「イザイの詩曲」での演奏曲は
Extase Poème -4 陶酔op.15 Amitiè Poème- 5友情op.26
エリザベート王妃国際コンクールでも入賞した毛利文香さん
ヴァイオリニストとして、ウジェーヌイザイはとても大事にしている作曲家だそうです。
【こぼれ話vol.6】
ピアニスト北村朋幹さん受賞おめでとうございます♥
私たちのコンサート【イザイとフォーレ】に続く【イザイの詩曲】のプログラム全演奏を支える最も大切な存在です。
【イザイとフォーレ】を終えた後、次なる【イザイの詩曲】への北村さんのコメントより
「糸車と"ポエム・エレジアク"に初めて取り組む中でこのジャンルに大変強い興味を持ちまして、実はあのあと、個人的な興味から、他の詩曲の楽譜を集めたり、資料を読んだりしていたところでした。」楽しみですね~
【こぼれ話vol.7】
【空想旅行案内人】ジャン=ミッシェル・フォロン(Jean-MichelFolon )は1934年ブリュッセル生まれ、フォロンは多岐にわたる多彩な才能が世界各国で高く評価された20世紀後半のベルギーを代表するアーティストです。1970年の大阪万博に初来日したフォロン、今回は没後20年、フォロン財団創立25周年の2025年に、日本で30年ぶりとなる大回顧展が開催されています。名古屋市美術館は3月23日迄、大阪市のあべのハルカス美術館は4月5日~ etc.
私たちは2025年10月7日から日本・ベルギー友好160周年を迎える2026年にかけて、【イザイの詩曲】を特集するコンサート他を計画しています。これまで無かった特別なプロジェクトに、フォロンのビジュアル(チラシ👇)を使用させていただける事になり、大変光栄に思っています。イザイとフォロンのベルギー文化のエッセンスを日本の皆様にご紹介する素晴らしい機会となるよう、一所懸命準備を進めております。どうぞよろしくお願いいたします。
❤Question❤
楽器と奏者が一体となった存在感、弓を持つ手は白く細く繊細でとても印象的。でも弦が6本ありますね~弓で弾くギター演奏は聴いたことがありません。 フォロンのメッセージを思い巡らせています♥皆さまの発想をお聞きできたら嬉しいです。いかがでしょう? *******************

フォロン財団のホームページ https://fondationfolon.be/
【こぼれ話 vol.8】
演奏曲「糸車の情景op.13 」は、1901年に作曲し妻のルィーズLouiseに捧げた詩曲、1909年11月3日にロンドンのQueen'sHallでYsaÿe とC.keithが初演。ピアノ伴奏の反復するリズムやメロディにのせて歌うシューベルトの「糸を紡ぐグレードヒェンGretchen am Spinnrade」の高揚感にインスパイアされたのかもしれませんね~。
ヴァイオリニスト山根一仁とピアニスト北村朋幹による2024年9月12日コンサートの演奏(記録録音)で、一部抜粋のデモ動画をお楽しみください。
山根一仁さんの演奏曲は 糸車の情景op.13、友情op.26、ポエム・ノクターンop.29
北村朋幹さんは全7曲♪
繊細な音色を楽しめるホールのホワイエには庭園が隣接、爽やかな秋風に吹かれてお過ごしいただけます。皆様のお越しをお待ち申し上げます。指定席好評発売中です。

イザイの自筆譜「Scène au rouet -糸車の情景」には手書きの表紙画が付き、右上にはA ma Femme(妻に捧げる)とありますから、これは特別な表紙なのでしょう。アール・ヌーボー様式で描かれた葡萄柄、葉っぱの細かい線、文字の装飾が印象的です。
【こぼれ話Vol.9】
ここでは【イザイの詩曲 】にまつわる話が主ですが、大こぼれ話として【イザイの無伴奏チェロソナタop.28】について触れたいと思います。
と言いますのは、音高3年生でチェロを専攻されている長屋亞矢乃さんから思いがけなくも資料提供のご希望があり、イザイを演奏したいという熱い思いに接し、心動かされました。若い息吹を感じたこの瞬間にイザイの無伴奏チェロ作品について、ここで共有できたら素晴らしいのでは!...と思ったわけです。
【イザイの無伴奏チェロソナタop.28 / EUGÈNE YSAŸE Sonata pour violoncelle seul opus 28 】

ベルギーのチェリスト モーリス・ダンボワに献呈、作曲年1923年6月30日ブリュッセルで完成、1924年に出版、1925年12月29日モーリス・ダンボワによる初演がラーケン宮殿(ベルギー国王およびベルギー王室の公邸)で行われました。

モーリス・ダンボワはベルギーのチェリスト(写真上)
イザイは無伴奏チェロ・ソナタ(作品28)を彼に献呈し、ヨーゼフ・ジョンゲンもヴァイオリンとチェロのためのソナタ(アルフレッド・デュボワに献呈)を彼に同時に献呈しています。
さぞかし腕利きで素晴らしい芸術家だったのでしょうね。小曲の演奏が残っていますので「スラブの子守歌」「柳」しみじみとした曲を聴いてみましょう~♪

100年前(1925年)に初演されたベルギーの王宮(画像上)です。
是非、皆様の宮殿でイザイの無伴奏チェロソナタop.28を聴いてみてください。
❤Grave重々しく荘重に- Intermezzo間奏曲- In modo di recitativo朗読風に- Finale con brio終盤を情熱的に(活気をもって)❤
【E.イザイの無伴奏チェロソナタハ短調とJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲第5番ハ短調】
私たち日本イザイ協会は、2017年にイザイとバッハ5番、2つの無伴奏チェロ曲「ハ短調」にスポットを当て、コンサートを開きました。イザイを伊藤悠貴さん、バッハを向山佳絵子さんに演奏いただき、少し専門的にはなりましたが、プログラムノートに作曲家で当時、音楽アドヴァイザー(顧問)として助言いただいておりました小森俊明さんによる執筆(写真下)があります。
参考になれば幸いです。


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